妊娠中は、さまざまな症状があらわれてママさんを不安にさせることがあります。妊娠中期は初期と比較すると心配な症状はだいぶ落ち着いてくるのですが、「ティッシュにつく程度の出血」が起こるケースがあるのです。
少量の出血程度であれば様子を見て安静にするべきか、それとも経過を見るまでもなく病院を受診する必要があるのか、判断に悩んでしまうママさんは少なくありません。ここでは、妊娠中期に「ティッシュにつく程度の出血」が発生した場合の、その原因と然るべき対処法について解説します。
目次
妊娠中期に出血は起こりにくい
妊娠中は、初期・中期・後期から臨月にかけてと、妊娠期間に応じて特有の症状が起こる可能性があります。しかし、「ティッシュにつく程度の出血」という症状は、妊娠中期に特有の症状というわけではありません。
妊娠中期の出血
そもそも「妊娠中期」という時期は、ママさんにとって安定している時期でもあります。この頃になるとお腹の中では「胎盤」が完成し、赤ちゃんに関するさまざまな機能(へその緒から栄養摂取・呼吸・排泄など)が確立しており、つわりが落ち着いている頃です。
妊娠中期に出血が見られるのは「妊娠中期に特有の症状」とはいえません。つまり、何らかの異常が発生していて、それが出血をもたらしている可能性が高いということです。ただし、必ずしも緊急性が高い症状であり、主治医に連絡して速やかに治療を受けなければならないというわけではありません。
とはいえ「出血している」という時点で、ママさんにとっては不安な状況になるでしょう。「赤ちゃんに何かあったのではないか?」「子宮に異常が発生しているのではないか?」といった不安を抱えてしまうと、そのストレスに起因して何かしらの症状をもたらすこともあります。
妊娠中期の出血を経験してしまった場合や、これから妊娠中期を迎えて症状の発生に不安を抱えているママさんは、なぜ妊娠中期に出血が起こり得るのか、その原因と適切な対処法を把握しておくことが重要です。原因と対処法を知っておけば、余計な不安を抱えることなく、迅速に最適な対応を実践できるでしょう。
妊娠中期に特有の症状とは?
先ほど「出血=妊娠中期に特有の症状ではない」という話をしました。では、妊娠中期という時期ゆえに起こり得る症状とは何なのでしょうか?本記事のメインテーマではありませんが、余談程度に解説しておきましょう。
妊娠中期の特有の症状として、1つ目に挙げられるのは「体重の増加」です。妊娠中期になると子宮内では赤ちゃんが成長していますし、つわりが落ち着いたことで食欲が回復している時期でもあります。そのため、妊娠初期と比較すると体重が急激に増加するママさんは少なくありません。定期健診で体重を把握しておき、必要に応じて体重コントロールを行いましょう。
2つ目は「血液に関する症状」です。妊娠中期になると赤ちゃんへの血流によりママさんの身体全体の血液量が増加します。それ自体は自然なことなのですが、問題は「血液の量だけが増える」ことにあり、これにより心臓への負担が増えて「動悸」が起こったり、赤血球量が相対的に足りなくなることによる「貧血」といった症状が出やすいです。積極的に食事で鉄分を摂取して、赤血球不足に対応しましょう。
妊娠中期にティッシュにつく程度の出血が起こる原因
妊娠中期には、ティッシュにつく程度の出血は、特有の症状としては起こりません。ですが、実際に妊娠中期に出血を経験されたことがあるママさんは少なくないのです。では、なぜ妊娠中期という安定している時期に、出血を起こすことになるのでしょうか?
子宮腟部のびらん
子宮腟部(子宮の入り口部分)の粘膜が、ホルモンなどの影響で充血した状態になることでびらんが発生します。赤ちゃんが大きくなることでこの部分が圧迫され、うっ血を起こしてにじむような出血が起きることがあるのです。出血量は「下着につく程度の少量」ですがびらんがあるとわずかな刺激で出血することもあるので油断はできません。
子宮頸管ポリープ
胎盤の組織がポリープ状になり、子宮口の外に飛び出したものです。前述のびらんと同様に少量の出血が見られることが多い症状となっています。妊娠中期の場合は経過観察することが多いのですが、頻繁に出血する場合は細菌感染を招いて早産などの症状につながる可能性があるので、こちらも油断できない症状です。
前置胎盤・低置胎盤
一般的に、胎盤は「子宮の上のほう」に形成されるのですが、何らかの理由で子宮の下のほうに胎盤がつくられることがあります。胎盤が子宮口の全部または一部を覆うようになるのを「前置胎盤」といい、子宮口の近くに胎盤がつくられるのを「低置胎盤」といいます。
胎盤の位置は、子宮が大きくなるにつれて上のほうに移動していくことが多いため、多くの場合は妊娠28週ごろにこれらの症状が診断されます。ただし、妊娠28週以前であっても子宮口に近い位置に胎盤がつくられると出血が起こる可能性があるのです。もし、担当の医師から「胎盤の位置が子宮口に近い」と伝えられている場合は、前置胎盤や低置胎盤により出血している可能性があります。
切迫早産
妊娠22週以降にお腹の張りや痛みを伴った出血が起こり、子宮頸管が短くなったり子宮口が開いてきたりして早産しそうな状態になってしまうことを「切迫早産」といいます。切迫早産が起こる原因はさまざまですが、たとえば細菌感染による絨毛膜羊膜炎や出血しやすい前置胎盤・低置胎盤などにより発生するケースがあります。
特徴としては、突発的に出血が起こったり、鮮やかな赤色の出血が見られる、出血量が多いときには早産のリスクが高まっている可能性があります。後述する「切迫流産」とともに、早期に病院を受診して適切な処置を施す必要がある危険性のある状態です。
切迫流産・後期流産
妊娠22週未満の状態でお腹の痛みや張りを伴った出血が起こると「切迫流産」と診断されることがありますが、赤ちゃんの心拍が見られる場合は妊娠を継続できる状態となっています。一方で、「後期流産」は妊娠22週未満に妊娠が終了してしまうことです。
妊娠12週未満に起こる「早期流産」に比べると可能性は少ないです。しかし、赤ちゃんの染色体異常や細菌感染による絨毛膜羊膜炎などが原因で妊娠中期にこれらの流産が起こる場合は十分にあります。なお、その際の出血量には個人差があり、ママさんによっては出血が見られないケースもあります。
妊娠中期の出血で確認しておくべき「出血の特徴」
前述のとおり、妊娠中期にティッシュにつく程度の出血が起こった場合、様子を見ても問題ないケースもあれば、早期に病院で診てもらう必要があるケースもあります。では、病院での問診に際しても必要になる「出血の特徴」は、どういった部分を確認しておくべきなのでしょうか?
出血の「量」
出血量は、出血の原因や緊急性を判断するにあたって重要な情報となります。問診時に具体的に説明できるように、たとえば「下着にちょっぴりつく程度」といったように相手にとってわかりやすい説明ができるようにチェック・把握しておきましょう。
出血の「色」
出血した際の血液の色は、妊娠中期の出血の原因を特定するにあたって極めて重要な情報となります。とくに緊急性が高いのは「鮮血」であり、早産や流産のリスクが高く、できる限り早めに病院で診てもらう必要があります。一方で、古くなった血液の茶色っぽい見た目の場合は緊急性が乏しいですが、不安であれば定期健診よりも早くに病院で診てもらうことをおすすめします。
出血の「状態」
出血した際に、血液がどのような状態であるかを把握しておくことも重要です。たとえば「粘り気がある」「サラサラしている」など、わかりやすく説明できるようにしておきましょう。また、お腹の痛みや張りを伴うか否かも同時に把握しておくと、説明の具体性が高まって診断に役立ちます。
出血の「回数・頻度」
出血するにあたっての回数や頻度を把握しておくことも、説明の具体性を高めるために役立つ情報です。できれば具体的な時間を把握しておくと良いのですが、午前中や夕方といった、ある程度のタイミングを把握できるような情報があるだけでも十分です。
出血の「タイミング」
出血がどのタイミングで発生したのかを説明できることも、診断の際に役立つ情報となります。たとえば「安静時に出血した」「トイレの際に出血した」といった具体性を伴う説明ができれば、診断の際に大いに役立つでしょう。
妊娠中期の出血は緊急性を伴うかどうか
この手の症状でとくにママさんが気になるのは「緊急性の有無」でしょう。お腹のなかの赤ちゃんが無事なのかどうか、すぐにでも病院で診てもらう必要があるのかどうか、判断できれば出血を自覚したのちに最適な行動をとりやすくなります。
妊娠中期にティッシュにつく程度の出血を確認した場合は、2つのポイントを押さえてください。
1つ目は「鮮血であるかどうか」です。出血した血液が赤色で、古くなっている茶色ではない場合は、緊急性を伴う可能性が高いといえます。すぐにかかりつけの産婦人科に連絡して、鮮血が出たことを説明して受診してください。
2つ目のポイントは「お腹の痛みや張りを伴うかどうか」です。出血の症状だけでなく、お腹に痛みや張りなどの症状が見られる場合、早産や流産が原因である可能性が疑われます。同様に、すぐに産婦人科に連絡して受診するようにしましょう。
一方で「血液の色が古い茶色っぽい+お腹の痛みを感じない」という場合は、緊急性は乏しいといえます。この場合は安静にしておき、次回の定期健診の際に出血したことを忘れずに説明しておきましょう。
とはいえ、不安に感じるでしょうし、万が一ということも考えられなくもありません。そのため、出血を確認した時点で前述の「出血の状態」を把握しておき、産婦人科に連絡して出血の状況について説明しておきましょう。必要に応じて、産婦人科を受診したり、緊急での受信は必要ないことを説明してもらうなどすれば、ママさんとしても安心して過ごせるのではないでしょうか。
医師の診断のポイントと治療方針
最後に、病院で診てもらう際の「診断のポイント」と「治療方針」について解説します。
医師の診断のポイント
医師が妊娠中期の出血を確認した際の原因の診断方法ですが、多くの場合は「内診」と「超音波検査」が用いられます。
医師が診断するポイントは「出血量」「出血が見られる部位」および「お腹に張りや痛みを伴っているかどうか」です。お腹の張りや痛みを伴う出血が見られる場合は切迫流産や切迫早産のケースが多く、速やかに処置を行う必要があります。一方でお腹の張りや痛みがなく、出血が少量だけという場合は子宮腟部のびらんや、子宮頸管ポリープの可能性が高いと判断するでしょう。
内診での診断結果には、ママさんからの申告が大きな情報源となります。出血という不安な症状に見舞われているとはいえ、的確な診断をしてもらうためにも、どのように出血しているかという状況をしっかりと把握しておき、必要であればメモをとっておくなどして産婦人科で的確に説明できるようにしておきましょう。
治療方法
妊娠中期の出血ですが、原因が何であるかによって治療方法・治療方針は大きく異なります。
子宮腟部のびらんの場合は、妊娠経過に影響するような出血ではないと判断されれば、出血が治まれば問題ないと診断されるでしょう。
子宮頸管ポリープの場合は、出血を繰り返すと細菌感染によって子宮頸管炎や絨毛膜羊膜炎感染を招き、流産・早産につながる心配があります。ポリープの大きさや、発生している場所に応じて切除など今後の処置を行う時期を判断します。
前置胎盤・低置胎盤の場合は、自宅安静または入院安静が指示されるでしょう。
切迫流・早産の場合、妊娠を継続させるためには安静にした生活が重要です。お腹の張り具合や子宮口の状態などの条件に応じて、医師から自宅安静または入院安静を指示されます。
まとめ
妊娠中期にティッシュにつく程度の出血が見られることは、必ずしも危険というわけではありませんが異常であることには間違いありません。不安を取り除き、安全に出産を迎えるためには、出血の状態を的確に把握して病院に連絡、必要に応じて受診して適切な治療を受けてください。